2025.09.01

  • 国際輸送

航空貨物の搬出を変えるTDMSとその課題とは?

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2024年11月に成田空港の輸入貨物の引き取りシステムである「TDMS(トラックドックマネジメントシステム)」が成田空港で導入されました。導入当初は大混乱となり、成田空港における大手上屋の一つであるIACT社では、輸入許可後1週間弱が経っても貨物の引き取りができない事象も発生しました。今回は、TDMSの導入によりどのような変化があったのか、また、現在も残る課題についてもご説明します。

TDMSとは

TDMS(トラックドックマネジメントシステム)とは、 NAA(成田空港公団)主導で導入された輸入貨物の引き取りシステムの総称です。運送会社がインタ-ネットで引取貨物の種類とトラックの車種を登録して利用することができます。
従来の輸入貨物の引き取りでは、輸入許可書とDO(出荷指示書)を上屋に提示し、貨物の搬出を待つ流れが一般的でした。貨物は一部の大手運送会社を除き、共通の仮置き場にランダムに搬出され、各運送会社が該当貨物を自ら探し、自社のフォークリフトで積み込む必要がありました。夕方以降の輸入貨物空港搬出口は搬出の順番を待つトラックで混雑し、搬出作業も深夜まで行われるのが日常でした。
こうした背景や、物流の2024年問題への対策が業界の喫緊の課題となったこともあり、現場作業員の確保、待遇改善、生産性向上を目的にTDMSが導入されました。

同システムを利用した輸入貨物の引き取りの工程概要は下記の通りです。
①輸入許可後にTDMSを経由して搬出予約をWebで行う
②引き取り運送会社情報を登録する(運送会社・ドライバー名・車番・ドライバーの携帯番号)
③引き取り時間枠の予約を取る

TDMSの導入による変化

TDMSの導入により、運送会社と現場作業員の双方で、業務効率や作業環境の改善といった前向きな変化が生まれています。
導入前の課題と導入後に改善された点を以下の表にまとめました。

視点 項目 導入前の課題 導入後の改善点
運送会社 搬出順

・順番が不明で長時間待機が常態化
・現場判断に依存

・webで搬出時間を予約
・順番が明確になり効率的な運行が可能

ヤードの混雑

・トラックの集中による夕方以降は混雑
・ヤード内の待機スペースも不十分

・時間枠ごとに搬出が分散し混雑が緩和
・スムーズな出入りが可能に

作業負荷

・貨物探しや自主荷役が必要
・荷役作業の負担

・指定場所で積み込みされ、自主荷役が不要に
・労力や時間が大幅に削減

現場作業員 搬出順

・指示が集中し対応が困難
・急な変更や割り込み対応が多い

・時間枠ごとの計画対応が可能に
・作業の見通しが立てやすくなる

ヤードの混雑

・車両や人の動線が交錯し危険が多い
・ピーク時の混雑が負担

・混雑の波が分散し、安全性が向上
・スムーズな作業動線の確保がしやすくなる

作業負荷

・作業の繁閑差が激しく、夜間対応が常態化
・人員確保が困難

・作業が平準化され、残業削減に貢献
・人員配置の最適化が可能に

TDMSの導入により新たに見えてきた課題

2章でご紹介したように、TDMSの導入によって、輸入貨物の引き取りに関する現場の課題は大きく解消されましたが、同時にいくつかの新たな課題も浮き彫りになってきています。

➀時間引き取り枠の制限

TDMS導入後の運用では、輸入許可状態にならないと貨物の時間別引き取り枠を確保できない仕組みとなっています。そのため既に引き取り枠が埋まっている場合、予定通りに貨物を引き取ることができず、納期に間に合わないケースがあります。特に夜間に輸入許可が下りる貨物などを取り扱い、当日配送希望の輸入者にとっては影響があります。例えば、午前中の開店に間に合わせたい店舗納品や、午後の生産ラインに投入する原材料の搬入などが遅れる可能性があります。JAL CARGOでは有料で時間別引き取り枠以外の緊急優先搬出作業にも対応していますが、近年は越境EC貨物の取り扱いが増加したことや緊急優先搬出作業が機能したことで、一般貨物の搬出が遅延すると言った事例が出ています。

②引き取り枠の再登録による待機時間の増加

あらかじめ時間別引き取り枠を確保していたものの、貨物引き取り予定のトラックが日中の業務の影響で指定時間に間に合わないケースがあります。その場合、再度時間別引き取りの時間枠の登録が必要となり、再設定によって結局長時間待機が発生することもあります。最悪の場合、引き取り枠に既に空きが無く、当日中に貨物が引き取れないケースもあります。

③仕分け作業の制限による対応とコスト増

TDMS導入後は空港内での混雑を改善するため、従来許可されていた空港内施設での貨物の仕分け作業、パレット貨物の解体が禁止されました。結果として、空港外の施設に横持ちし対応することになり、従来にはなかった輸送コストが追加で発生する要因となっています。
①と②の課題に対しては、NAA側も以下のような対策を講じることで、運送事業者と現場作業者の双方の負担削減に努めています。また、時間別引き取り枠が急遽キャンセルになった枠を活用することも可能ですが、枠が空くまでトラックが待機している必要があるといった条件が付いています。

・引き取り枠の拡大
・早朝6時枠の新設*
・輸入許可が下りる前の貨物の事前時間別引き取り枠予約の導入検討
・輸入搬出貨物の取り扱いバース振り分けの自動化
・引き取り希望時間の15分前までの予約締め時間の改善検討

*有料です。午前6時作業開始のため、実際の積み込み時間は午前6時以降です。

路線会社の引き取り条件の変化

TDMSには直接的な影響はありませんが、路線会社への影響について実態をご紹介いたします。路線会社が直接空港に引き取りに来るケースは稀です。路線会社はチャーター貨物と異なり、複数の荷主の貨物を引き取る必要がありますが、荷主ごとの貨物の輸入許可時間は異なります。また上屋業者はJAL CARGO、IACT、NCA、スイスポートなどの4社あり、引き取り場所は別々の場所になります。さらに搬出場所も上屋会社ごとに違い、同一の上屋会社でも場所が離れた複数の蔵置場所・貨物搬出口があります。また路線会社は国内のような単純な引き取りではなく、搬出手続き、ダメージチェックなどの煩雑な手続きがあり、かつ引き取り時間が読めないことが起因しており、相当な手間と拘束時間を要することから直接路線会社は空港上屋へは乗り入れていない状況です。実際成田空港では路線会社は西濃運輸が主ですが、上屋からの引き取りは専用の車が行い、空港近郊のターミナルへ持ち込んでいるのが実情です。
また、引き取りの効率化と輸送能力の関係で輸入許可時間はPM12:00(業者によってはAM10:00)を依頼のカット時間としており、かつ昔と違って最大重量は500kg、もしくはパレット貨物は最大2パレットに受託を制限しています。(2mを超える長尺貨物は受託不可)
このようにTDMSの運用はいまだに課題が残っており、路線会社の制約も輸入貨物の引き取りに大きな影響を与え、納期遅延やコスト増のリスクを高めています。
                                                                         鈴与はUPSSCSジャパンと提携しており、海上、航空貨物の輸入通関以降の手配から、海外からの輸入手配まで一貫手配を行っています。
航空貨物輸送サービス、国際宅配便サービスを鈴与に窓口を一本化していただくことで、手配業務の簡素化、貨物引渡作業の効率化のほか、貨物特性、緊急性、コストを加味して最適なサービスをご提案することでこうしたリスクを最小限に抑えます。
国際輸送に関する課題がございましたらぜひお問い合わせください。

国際宅配便については以下のコラムで詳しくご説明しています。 ▶コラム:国際宅配便と航空貨物輸送との違いとは?国際宅配便の特徴や活用事例をご紹介します ▶コラム:国際宅配便と航空貨物輸送の使い分けポイントをご紹介します

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