2026.05.18
- 医療機器物流
医療機器の品質管理における統計的思考の基本と実務での活用ポイント

医療機器の製造現場の品質管理において、「これまで問題がなかったから大丈夫」「以前も同じ製品でトラブルは起きていない」といった言葉を耳にすることがあります。
特に製造販売業者では、製造を外部の製造業者に委託していたり、製造拠点を海外に所有している場合、手元で把握できる情報が限定的になりがちです。そのため、どうしても過去の実績や担当者の経験に判断が偏りやすくなります。
しかし、医療機器の品質管理において本当に求められるのは、「問題が起きてから対応すること」ではなく、「問題が起きる兆候を、早い段階で検出すること」です。
その鍵となるのが、「統計学的な考え方」です。実務で必要なのは計算力ではなく、「ばらつき」と「変化」を捉える視点です。
統計的思考とは何か|品質管理の基本視点
例えば、受入検査の結果が次のように推移していたとします。
・数値はすべて規格内
・ただし、ここ数ロットで少しずつ悪化傾向
このとき、「規格内だから問題ない」と判断するのが過去実績に頼った考え方であり、「変化の傾向が出ている」と気づくのが「統計的思考」です。
統計的思考は、
・1点の結果よりも流れ(トレンド)を見る
・平均値だけでなくばらつきに注目する
という視点を与えてくれます。
医療機器の品質管理で統計的思考が役立つ場面
医療機器の品質保証業務でも、統計的な考え方はさまざまな場面で活用できます。
・受入検査結果の推移確認
・苦情件数や不具合内容のトレンド分析
・製造業者から通知があった変更内容の影響評価
・年次レビューにおける各品質項目の定量的説明
重要なのは、「異常値が出たかどうか」ではなく、「いつもと違う振る舞いをしていないか」を見ることです。
統計的思考を身につける上で重要な3つの視点
次の3つの視点が、統計学的思考を身につける上で重要なポイントです。
➀単発ではなく「連続」で見る
1回の結果よりも、時系列での変化に注目します。
②平均より「ばらつき」に注目する
製品が安定しているかどうかは、ばらつきが教えてくれます。
③データは「判断の根拠」に使う
当局や顧客への説明を、感覚ではなく数値で支えます。
医療機器の品質管理で使われる代表的な手法と使い分け
前段で紹介した3つの視点は、具体的な品質管理の手法に落とし込むことで、実務に活かすことができます。
ここでは、製造における品質管理で比較的よく使われる代表的な手法を整理します。
X̄-R管理図
連続したデータの「平均値(X̄)」と「ばらつき(R)」を同時に管理し、工程や品質の安定状態を監視する代表的な管理図です。
◆活用例
・データの「トレンド(徐々な変化)」の検出に有効
・規格内でも「いつもと違う状態(統計的に異常な変動)」に気づくことができる
・工程や受入条件が安定している状態(統計的管理状態)を評価できる
◆活用に際しての留意点
・データ数が極端に少ない
・単発の合否判定のみを行う場合は活用に不向き
◆関連規格・規準(参考)
・JIS Z 9020-2:2023(管理図法)
・ISO 7870-2(Control charts)
ヒストグラム
データの分布(ばらつきの形)を、視覚的に把握するための手法です。
◆活用例
・データがどの範囲に集中しているかの把握
・規格中心からのズレや、分布の偏りの確認
・管理図を見る前段階の「全体像把握」
◆活用に際しての留意点
・時系列の変化(トレンド)は分かりにくい
・異常が「いつ起きたか」は判断しづらい
◆関連規格・規準(参考)
・JIS Z 9024(統計的品質管理用語)
・ISO 3534(Statistics -- Vocabulary and symbols)
パレート図
不具合や苦情の原因を「多い順」に整理し、重点管理すべき項目を明確にする手法です。
◆活用例・苦情・不適合の重点管理項目の特定
・不適合の重点管理項目の特定
・改善活動の優先順位付け
・年次レビューやマネジメントレビュー資料
◆活用に際しての留意点
・時系列の変化や傾向の把握には不向き
・工程の安定性は評価しづらい
◆関連規格・規準(参考)
・JIS Q 9024
・ISO規格(統計手法関連: ISO 7870、9000シリーズ等)
単純集計・推移表
月別件数、ロット別不具合率など、比較的シンプルな集計方法です。
◆活用例
・上司や関係部署、新規担当者への説明資料として活用
・管理の「入口」(トレンド分析の前段階)として有効
◆活用に際しての留意点
・ばらつきの定量は評価しづらい
・規格内外に現れない異常の検知は困難
品質管理は一つの手法で完結するものではなく、目的に応じた使い分けが重要です。
まとめ
品質管理は、経験だけに頼るものではありません。統計学的な考え方を身につけることで、客観的で説明可能な判断ができるようになります。
「勘」や「過去実績」に頼る品質管理から、「データに基づく品質管理」を意識することが重要です。
鈴与では、データに基づく品質管理を意識した体制のもと、製造工程の設計・運用から改善までを一貫してサポートしています。
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